冬の花
10
佑樹が居なくなり、1ヶ月が過ぎた。

この1ヶ月間、私は特に変わりなく日常を過ごしていた。

佑樹が居なくなったばかりの頃は、
少し周りが騒いでいたけど。

佑樹を殺害した翌日、私は普通に仕事をしていた。

「あれ?
またマネージャー代わったの?」

スタジオの廊下で、鳴海千歳とすれ違う時に私が挨拶すると彼は足を止めた。

そして、私の新しいマネージャーを見ている。

「はい。
急遽岡田あかりの担当になりました、
長谷川高貴(はせがわこうき)と言います!
僕、鳴海さんの書くドラマのファンなんです!
だから、こうやってお会い出来て嬉しいです」

「ああ。ありがとう…」

今日で私は、撮影中だった映画のクランクアップの日。

他の出演者は、まだ撮影が残っている人もいるけど。

「僕、前のマネージャーの北川とは同期なのですが、
彼、急に仕事嫌だって行方不明になって。
それが、今朝の出来事なんですけどね」

私の新しいマネージャーの長谷川君は、
演技掛かったようにため息を付く。

「えっ?どう言う事?」

鳴海千歳は興味深そうに、目を私に向けた。

「夕べ、北川から急に電話かかって来て。
仕事が嫌だから暫く姿消すって。
それを俺に社長に伝えておいてって。
一方的にそう言って、電話切って。
冗談かと思ったら、本当に今朝から音信不通で」

「朝、時間になっても迎えに来ないから佑樹に電話したら、圏外で。
だから、社長に電話したんですよ」

長谷川君の話の途中から、
私が話した。

私は佑樹が来ないと知っていて、
今朝、佑樹に電話をした。

そして、それを伝える為に社長に電話をした。

それからは、急遽私のマネジメントをする為に、社長から偶然この長谷川君に電話があったらしい。

長谷川君しか、空いてる人間が居なかったみたい。

そして、長谷川君は、佑樹からのその電話の内容をそのまま社長に話したらしく、
とりあえず、長谷川君を私のマネージャーに据える事にしたらしい。

「それで朝、私の入りの時間に遅れて、大幅に撮影が押してて。
私達の会社のせいですみません」

私はそう言って、鳴海千歳に頭を下げた。

それを見て、慌てて長谷川君も頭を下げる。

「へぇ、行方不明ね。
仕事が嫌に、ね。
北川君、一体どうしたんだろうね?」

私をそう言って見る鳴海千歳に、
なんだか全てを知られているようで怖くなった。

「本当ですね…」

反らしたら駄目だと思いながらも、
私はその鳴海千歳の顔から視線を反らした。

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