揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
こうして、半ば呼び出されるような形で、達也は鈴の家を訪問することになった。


「達也さん、急にごめんなさい。」


「いや、今まで何度も鈴を家の前まで送って行ったこともあったのに、1度もご挨拶してなかったのは、確かに非常識だった。反省してるよ。」


そう答えた達也を見て


(お母さんが、例の調子で、失礼も顧みずに、ズケズケと達也さんにモノを言わないといいけど・・・。)


鈴は不安を抑えることが出来ない。果たして


「お初にお目にかかります、神野達也と申します。鈴さんとは、1年程前から、お付き合いさせていただいております。よろしくお願いいたします。」


と玄関先で、丁寧に頭を下げた達也に


「そうですか、1年ですか。だったらもう少し早くいらしていただいてもよかったかもしれませんね。取り敢えず、お上がり下さい。」


と早速の先制パンチ。先の思いやられる展開になった。


その後、居間に案内された達也が、手土産を差し出し、席につく。彼の正面に良子が座り、お茶を出し終わった鈴は、達也の横に腰掛けた。


「神野さんは、鈴と同じ会社にお勤めとか?」


「はい、3年先輩になります。」


「失礼ですが、部署はどちら?」


「総務部に所属してます。」


「営業ではないんですね?」


「はい、鈴さんとは別の部署になります。」


「あの、実は達也さんとは、入社前からご縁があって・・・。」


予想通り、矢継ぎ早に達也を質問攻めする母に割って入るように、鈴は彼との馴れ初めを話すが、それにはほとんど関心を示さず、良子は更に質問を続ける。


「率直にお聞きします。鈴とは今後、どういうお付き合いをなさって行くおつもりですか?」


「はい?」


「つまり、将来的には、結婚も視野に入れていらっしゃるのかどうかとお聞きしているんです。」


(うわ、いきなり・・・付き合い始めてからまだ1年だよ。私は達也さんのことを運命の人だと思っているし、将来はそうなりたいと思っているけど、まだ2人で、そんな話をする段階じゃないのに・・・。)


鈴は戸惑い、隣の達也がどう答えるのか、不安そうに視線を送る。


「正直申し上げて、鈴さんとそこまでの話をしたことはまだありません。ですが、僕の率直な気持ちを申し上げさせていただくなら、僕はそのつもりで、お付き合いさせていただいております。」


(達也さん・・・。)


物怖じせず、まっすぐに母親を見て、そう答えてくれた達也が、鈴は頼もしく、嬉しかった。
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