揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
それから、4人はいろいろと話をしながら、昼食を共にした。男性を前に緊張している2人を、彼らは優しくリードしてくれた。


「鈴です。」


「怜奈です。」


とまずは名前だけで、自己紹介した2人に


達也(たつや)です。こう見えても大学2年生です。」


鈴を助けた方の男が、そう言うと


「同じく雅紀(まさき)です、よろしくね。」


と横の友人も、後に続けた。


こうして打ち解けた4人は、どちらが誘うともなく、昼食後は行動を共にした。


達也と雅紀の気取らない雰囲気は、鈴と怜奈に必要以上の警戒心を抱かせなかったし、彼女達の素直で、明るい立ち振る舞いは、彼らに好感を抱かせた。


そんな時間を過ごしながら


(あっ、鈴は落ちたな。)


怜奈は思っていた。あの引っ込み思案の鈴が一所懸命、達也に近づき、達也とコンタクトをとろうとしていた。


達也のことを知りたくて、達也に自分のことを知ってもらいたい。そんな彼女の思いが、横にいて、ヒシヒシと伝わって来る。


(鈴、頑張れ。)


だから、自分もこのひと時を楽しみながら、でも途中から、完全に鈴の応援に回っている。


意識して、鈴から離れ、達也と一緒にいるように仕向ける怜奈。雅紀も同じ気持ちのようで、自然2人も話す機会が増えた。ただ、悪い人には思えなかったけど、怜奈は雅紀のことは、あまりピンと来なかった。


夏の陽はまだまだ高かったけど、気が付くと時計は夕方の5時を指していた。鈴と怜奈は、そろそろ帰宅の途につかなくてはならない時間になってしまった。


2人がそう告げると、達也も雅紀も残念そうな表情になったが


「そうだよなぁ。2人はまだ高校生だもんなぁ。」


と達也は言った。


「すみません。でも、今日はとっても楽しかったです。」


「ありがとうございました。」


そう言って、頭を下げた2人に


「俺達はもうひと泳ぎしてくから。送って行けないけど、気をつけて、帰るんだよ。」


「はい。」


「じゃ。」


そう言って、背を向けた達也に、驚いた表情を浮かべる鈴と怜奈。


「お、おい、達也・・・。」


雅紀も慌てたように声を掛けたが、達也は構わず歩き出す。


「じゃあ。」


そう挨拶して、達也の後を追った雅紀の後ろ姿を、2人は立ち尽くすように見送る。


「ねぇ、いいの?」


堪りかねたように尋ねる怜奈に


「仕方ないよ。達也さんには、私みたいな子供じゃ、やっぱり物足りないんだよ。」


しょげたように言う鈴に、怜奈は掛ける言葉を失う。


あんなにいい感じだったのに・・・連絡先も聞かれず、お互いの苗字すら、結局名乗り合うことはなかった。


「待って。」


そう言って、達也を追い掛ける勇気は、鈴にはなかった。
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