俺様アイドルが私の家に居座っている。
次の日は驚くほどいつも通りの彼だった。

それどころか。

ふと甘いものを食べたくなって買って帰った三連プリンを勝手に二つ平らげ、かなりご機嫌な様子。

王様態度は実に不愉快だけれど、彼が心のうちをはっきりおっしゃらないのは気持ちが悪い。
しかしもう昨日の諍いなど忘れているようだったので、私も触れないことにした。

触らぬ神に祟りなし、だ。


その後の手塚くんは仕事が急激に増え、ゼミの前の時間にしか会話できなくなった。

彼は芸能人ということを明かしていないため、欠席が多いとただのサボり魔だと思われてしまう。
それがどうにも彼のプライドを傷つけるらしい。

しかし実際、ゼミだけは出席率も重視されていたので、私がノートを取っておけばよいというわけにはいかなかった。


「今日も仕事?」
「ああ、撮影が。今週他の授業も出られそうにない」
「ノートとっとくよ。その代わり今度奢って」


奢ってと言いつつ、彼の給料は私の払ったお金も含まれているのだろう。
これじゃあ自転車操業だ。

「わかった。あと時森、お願いが」
「なに?」

急いでいるのに、彼はスマートに私に紙切れを渡してきた。

「なにこれ。ゴミ捨てる暇もないから捨てとけって?」
「馬鹿、絶対捨てるなよ。
俺の連絡先。登録してノート写真撮って送ってほしい。悪いがよろしく頼む」

早口でそうまくしたて、教室を出ていった。

私の手元には走り書きのID。
あまりにも機密事項すぎるノートの切れ端。


「沙良って~手塚と仲良いよね~」
「うわあっ!?全然良くないよ!?」


ふうん、とニヤニヤする若葉。

本当に勘弁してほしい。この紙切れの詳細を彼女が知ったら卒倒する。

さっとポケットに忍ばせた。


「ま、いいけど」


ご飯食べよ、といつもの学食へ。
しかし私はお金がないのでお弁当。
彼女の美味しそうな日替わり定食を指をくわえてみるしかない、残念な貧乏学生だ。


「そういえば知ってる?茶川さん」
「え?なんかあったの?」


茶川さんといえば、最近バラエティーによく出演している。
結構波に乗っている印象だ。


「週刊誌に乗るかもしれないって」
「えっ!?」


予想だにしなかったことで思わず大声が出てしまう。
しかし本気で驚いた私は動揺を抑えられない。


「どうしてなんで。どうして」
「女優と撮られたって。まあまだ噂程度だけどね」
「そんな……」


キラキラアイドルの茶川さんがスキャンダルをおこすなんてことにも驚いた。
だが真っ先に浮かんだのは、いくらでも私と撮られそうな二人の顔。

まずい、まずすぎる。
もし週刊誌に撮られでもしたら、今後彼らにとって間違いなく大きな弊害になる。


――うちから追い出すしかない。


「沙良?おーい?聞いてる?」
「えっごめん何!?」
「いや、この情報別に確定じゃないからそんな死にそうな顔しないでって」
「死にそうな顔、してた?」

こくこくと頷く若葉。

愛想笑いでごまかして、何とかその場は乗り切る。
それでも私の心には不安が渦巻いていた。
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