ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 デスクに戻ると、小田島さんに呼ばれた。他の人はまだ戻ってきていない。
「明日、西谷出張で、俺は須藤と外だから、久保田の面倒みてやって」
「久保田君の面倒って、何かありましたか?」
「これ、やらせてるから」
 小田島さんはモニターを指差す。
 出ている資料を見て納得した。
 新人に任せるにはうってつけの、簡単だけど注意事項の多い案件だ。
「わかりました」
「大丈夫か?」
「はい」
「仕事は大丈夫だろうけどさ」
 小田島さんは、ニヤッとする。
「久保田に話しかけられる度にまだガチガチだけど平気か、って聞いてんだぞ?」
「大丈夫です、大人なので。これでも一応」
 大人と一応、は強調した。小田島さんは、またニヤッと笑う。
「じゃ、よろしく」
 頷いて席に戻ると、美里ちゃんが戻ってきた。
「千波先輩、今、葵と行った洋食屋さん、おいしかったから、今度一緒に行きましょう」
「いいね〜、じゃあ来週のどっかで行こうか」
 葵、とは、下フロアのチームの人で、美里ちゃんの同期だ。恭子にちょっと似た雰囲気の、美人さん。美里ちゃんは、一番仲がいいらしい。
 洋食屋さんのメニューについて、美里ちゃんとおしゃべりする。

 私の結構な人見知りは、久保田君にはまだ発揮されている。
 話しかけられると、ガチンと体が固まってしまって、受け答えはぎこちない。
 自分でも嫌になってしまうから、なんとかしたいと思うんだけど。
 社会人になってからは大分マシになって、仕事の話ならなんとかできるように頑張っている。
 女性にも、いくらかは発揮されるものの、それほどひどくはない。美里ちゃんなんて、半日くらいですぐに打ち解けた。
 男性でも、人による。小田島さんは私の教育係だったから、一緒にいる時間は長くて密接。慣れるのに時間はさほどかからなかった。
 西谷君は、まともに話ができるようになるまでに1ヶ月かかった。でも、私にとってこれくらいは普通。
 そう考えると、やっぱりはるちゃんは別格だ。緊張も何もなかった。最初から普通に話せたし、笑えた。周りもびっくりするはずだ。
 久保田君は、何故か時間がかかっている。イケメンだし、雰囲気はやわらかいし、話しやすいはずなのに。私が苦手な、高圧的なタイプでもないし、男尊女卑でもない。はるちゃんが「あいつは腹黒」って言ってたけど、そのせいだろうか。緊張が抜けない。
 もう7月。そろそろ馴染んでいきたいところだから、明日ちゃんと頑張ろう。
 明日は金曜日だし、頑張ったらはるちゃんのお家訪問だ。気合を入れよう。



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