転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
サマラはメイドの手からタオルを奪うと、洗面桶でバシャバシャと顔を洗った。ディーが出立するのが午前か午後かわからないが、今は時間が一分でも惜しい。

昨日は彼の地雷を踏みまくってもう駄目だと思ったが、わざわざ魔力を使って妖精を見せてくれたり、寝てしまったサマラをベッドまで運んでくれたりしたところを見ると、挽回のチャンスはまだ十分にあるような気がする。

(どうせあと数時間……! 全力でやれることはやっておきたい!)

生き延びるためならば小さな努力だって惜しみたくない。サマラは必死だった。

(それに……ディーとお別れする前にお礼が言いたい。ベッドまで運んでくれたこと。全然勉強してなかった私に、魔法がどういうことか、妖精がどういうものか教えてくれたこと。少しだけどお喋りしてくれたこと。それから……抱っこして『ただいま』って言ってくれたこと)

やっぱりこの心と体はサマラだとつくづく思う。サマラは父が恋しくて、父と過ごせた昨日が嬉しくてたまらなかったのだ。
昨日までの幼いだけのサマラだったら、その気持ちを自覚することも言葉にすることも出来なかっただろう。けれど今は違う。佐藤由香だった頃の精神状態と思考力が、それを助けてくれている。

サマラはドレスに着替え髪を整えてもらうと、急いで部屋を出た。そして執事に教えてもらって、ディーのいる庭園のイチイの樹のもとへ走って向かう。

「おとーさま!」

ディーはイチイの樹に向き合って立っていた。樹の精と何か話していたのだろう。近くのベンチにカレオもいた。
< 30 / 200 >

この作品をシェア

pagetop