新人ちゃんとリーダーさん
頭が真っ白になる、とは、こういう事を言うのだろうか。否、こんな風に考えられている時点で違うのかもしれない。
どうしよう。話が全然見えないぞ。
下手な受け答えをして怒鳴られたくはない。しかし何か答えねば、と。ジ、と眼前の麗しいお顔を見つめれば、くしゃりと眉間に皺が寄る。
「……んな、好きなんかよ、そいつが、」
酷く、悲しげな声だった。
そいつ、とは?と問うたところで、おそらく返ってくるのは、クズ、ヒモ、パラサイト、の単語達なのだろう。
けど、居ないんだよなぁ、そんな人。
「あの、鬼頭さん」
「……んだよ、」
「いくつか、質問とかしたいんですけど、いいですか?」
「……」
「あと、座りませんか」
「…………ん」
多分、というか、ほぼほぼ、何か勘違いしてらっしゃる気がしてならない。とりあえず、頭を掴んでいる手を離してもらい、ベッドへの着座を促した。
ちらりとハリーさんに視線を向けた鬼頭さんは、カラカラと回し車でランニング真っ最中の彼を一瞥したあと素直にベッドへ座る。その様子にどこかほっこりしながら、鬼頭さんの隣へと私も腰を降ろした。
「あの、私を誰かと勘違いしてませんか?」
意を決して、言葉を吐く。クズでヒモでパラサイトな彼氏様がいるのはあなたの好きな人でしょう?私は九頭見結愛。あなたの好きな人ではないんですよ、と言外にそう伝えれば、鬼頭さんの眉間の皺がさらに深くなる。
「してねぇ」
「いや、でも、」
「してねぇっつうの。男がいんの分かってて家に連れ込んだのも、抱いたのも、今みてぇに家に上がり込んで男出せっつってんのも、てめぇだからだわ」
これでもかという程に、吊り上げる鬼頭さんの眦。なのにそれすらも格好いいとか本当ずるい!と感心していたら、ぎちりと歯噛みした音が聞こえた。
「…………え、と、あの、私、いません、けど、」
「あ?」
「付き合ってる人、どころか、その、誰かと付き合った事、とか、私、ない、です」
「あ?」
「……」
「……はあ!?」
「えっ、なっ、」
「いやおま……っ、な、はあ!?ちょ、待て。落ち着けよ、おお、」
「は、はい」
「……」
「……」
「いや嘘つくなや」
かと思えば、今度は表情が消えて、真顔になった。