嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「帰んぞ」

「あ、うんっ」

「ひまりばいばーい」

「ばいばいっ」

旭君が教室まで迎えにきてくれるという奇跡。背の高い旭君は、ただでさえ目立つ。加えて学年でもイケメンイケメンと騒がれてるらしいから、女子達はいつもよりザワザワしてる。ような気がする。

「あ、大倉さん!こないだはありがとね!」

昇降口で、Tシャツ姿の一ノ宮君とバッタリ。

「お役に立てたみたいでよかった」

「大倉さんさまさま!てか俺大倉さんに借り作ってばっかだね」

「借りなんて大袈裟だよ」

「今度お礼するから!」

「いいってば、そんなの」

「ひまり」

後ろからグイッと腕を引かれたと思ったら、旭君がブスッとした顔でこっちを睨んでる。

「あ、引き止めてごめん!ばいばい大倉さん!」

「うん。部活頑張って」

片手をあげる一ノ宮君に笑顔を返して、私はドキドキと高鳴る心臓を誤魔化すように急いでローファーを履いた。

ーひまり

物凄く久しぶりに、旭君から名前を呼ばれた。

どうしよう、すっごく嬉しい…!

ただ名前を呼ばれただけなのに、自分でもビックリする位嬉しいと感じてしまった。








「でね、そしたら菫ちゃんが…」

いつもより何倍も口数が多くなる。浮かれてるなぁ、私。

「なぁ」

「ん?」

「お前、アイツと仲いいの?」

「アイツ?」

「さっき話してたアイツ」

「あぁ、一ノ宮君?同じクラスだけど、別に仲いいって訳でもないかなぁ」

「でもお前、普通男とあんな話すことねーじゃん」

「んー?何か一ノ宮君は話しやすいっていうか、そんなに男子って感じしないというか」

「…ふーん」

旭君は、興味なさそうな顔でそう呟いた。

「あのさ」

「ん?」

「…いや」

旭君は、前からこんな感じだ。

口を開けば意地悪ばっかりだし、そもそも口を開く回数も少ない。

だけどなんとなく分かってしまう。

最近の旭君は、ずっと何かを言いたげだってこと。

「ねぇ、旭君」

「あ?」

「今日、寄りたいところがあるんだけどいい?」

「どこ?」

「えっとね…」
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