嘘吐きな王子様は苦くて甘い
ふぅふぅ言いながら、私達は何段あるか分からない石段を登った。何でも卒なくこなせそうな旭君は、実はそんなに運動が得意じゃなかったり。

私はまぁ、見た目の通りとろくさい。

「久しぶりだねぇ、ここ」

「相変わらずきたねぇし、何もねぇ」

「それがいいんだよ」

ここは、私達の家からそんなに遠くない場所にある小さな神社。普段誰も居ないし、もう少し先に大きな神社があるから初詣なんかも皆そっちに行ってしまうから、参拝してるのは地元のおじいちゃんやおばあちゃん位だと思う。

手入れもあまりされてない、古くて何もないこの場所。境内の周りは、草や木で生い茂ってる。

小さい頃、旭君と二人でここを隠れ家みたいにしてよく遊んでた。よくお母さんに、境内の中には絶対入っちゃいけないって怒られたっけ。

「何でここ?」

小高いこの場所からは、私達の通う高校が小さく見える。旭君の少し茶色がかったサラサラの髪の毛が風に靡いて、なんだかそれを凄く綺麗だと思った。

「ここなら、ゆっくり話せるかなって」

石で作られたベンチとも呼べないそれを軽く手で払って、私はそこに腰掛ける。すぐ隣に旭君も座って、たったそれだけのことなのにまた心臓が高く跳ねた。








「旭君、私に何か言いたいことある?」

彼の目を見つめながら言うと、一瞬目を見開いて。

「…何で?」

小さくそう、呟いた。

「最近、何か言いたそうにしてること多いから」

「気のせいだろ?」

「そう?それならいいんだけど。じゃあ普通にお話しよう。こうやってゆっくりすること、最近全然なかったし」

多分勘違いじゃないけど、言いたくないならこれ以上は聞かない。それを勘づかれないようにニコッと笑えば、旭君はキュッと眉間にシワを寄せた。

「なぁ」

「何?」

「お前何で、いいって言ったの?」

「え?何を?」

「…俺と、付き合うこと」

「っ」

まさかそんな質問されると思わなかったから、思いっきりあたふたしてしまう。

何でって、そんなこと決まってるのに…

「す、好き…だからだよ」

目をギュッと瞑って、膝の上で拳を握り締めた。

このまま蒸発しちゃうんじゃって位体中熱いけど、ここで曖昧に誤魔化したくなくて。

旭君が付き合おうって言ってくれたこと、本当に嬉しかった。

だから私も、少しでもちゃんと自分の気持ちを伝えたい。

恥ずかしがってばかりじゃ、何も始まらないから。

「私…ずっと、旭君のことす、好きだったから」

言えた。私ようやく、ちゃんと言えた…!
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