嘘吐きな王子様は苦くて甘い
旭君は恥ずかしそうに少し眉根を寄せて、でも頬から手を離そうとはしなかった。

「あ、旭君あの…っ」

「…ごめん、ちょっとだけ」

囁くようにそう言われたら、もう抵抗できない。旭君の触れた指が微かに動く度、私も反応してしまう。

「お前は凄いな」

「え?」

「俺とは全然違う」

「旭君…?」

「お前はずっと…」

旭君はスッと目を細めた後、私の頬から手を離した。

あんなに恥ずかしかったはずなのに、離れた手の温もりを恋しいと思ってしまうなんて。

そう思ってしまった自分も恥ずかしくて、誤魔化すように自分の両手でほっぺたをパチンと挟んだ。

「ありがとな、ひまり」

「何でお礼?」

「別に」

「変な旭君」

「これからどうすんの?」

「えっとね、菫ちゃんと風夏ちゃん探して一緒に回ろうかなって」

「じゃあ一緒に探す」

「え?で、でも」

「いーから、ホラ行くぞ」

旭君はさっきの顔が嘘みたいに普通に戻ってて、私の前をズンズン歩いていく。私も慌ててその後をついていった。











「ひま、お疲れ」

「ありがとう、二人とも」

「学園祭も終わっちゃって、後はテストかぁ嫌だなー」

「まだ終わってないじゃん。明日もあるし」

「そうだけどさぁ、終わった時のこと考えちゃってー」

旭君が一緒に探してくれて、二人はすぐに見つかった。菫ちゃん達は旭君と回ったらって言ってくれたけど、先に約束してた二人と回りたいってお願いして。

旭君も気を遣ってくれたのか、他の人と回るからってすぐに行っちゃったし。

「でもひまりいーの?宣戦布告みたいなことされちゃったんでしょ?」

三年生の模擬店で買ったタピオカミルクティーを片手に、風夏ちゃんが私を見る。

色々回ってる間に、さっきあったことを簡単に二人に説明したからきっと心配してくれてるんだ。

「卑怯だよね、ひまが身動き取れないの知っててさ」

「その子達、あの前橋さんって子に協力するフリしてひまりが石原君と別れればいいって思ってんだろうね」

「うーん、どうだろう…」

「今度は絶対、ひま一人にしないからね」

「ありがとう」

「今頃また石原君にちょっかいかけてるんじゃないの?あることないこと言ってなきゃいいけど」

風夏ちゃんの言葉に、少しだけ胸が騒ついた。

前橋さんは私が一ノ宮君に好意を寄せてるって思ってたみたいだったし、もしかしたらあの子達はそれを大袈裟に旭君に伝えてるかもしれない。

そう思ったら今すぐにでも駆け出して旭君の側にべったり張り付いてたい気持ちになっちゃうけど。

「旭君のこと一番分かってるのは、私のつもりだから。もちろんだからって決め付けてるわけじゃないけど私は旭君を信じてるし、旭君も私を信じてくれてるって、その気持ちも信じてるから」

「ひまり…」

「だから、大丈夫じゃないけど大丈夫なんだ!」

ニコッと笑顔を作る。不安もあるけど、今は旭君を信じて何もしない。

二人は顔を見合わせて、それからすぐ私に手を伸ばして。笑いながら、私をめいっぱい褒めてくれた。
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