嘘吐きな王子様は苦くて甘い
ーー

「どうだった?風夏」

「運動部の友達何人かにも聞いてみたけど、もう結構知られてるみたい。皆、石原君がひまりを騙して好きでもないのに付き合ってるって思ってる」

「そっか」

「ありがとね、風夏ちゃん」

私の為に噂を訂正してくれたり、同情めいた嫌味を言ってくる人に怒ってくれたり、二人がいなきゃ私は今こんなに堂々としていられない。感謝しても、本当にしきれない。

「でも不思議、あの子ら石原のこと好きだったんじゃないの?ひまより、石原の評判が落ちてんじゃん」

「大して何も考えてなかったんじゃん?」

「あー、それあり得るね」

「ねぇ、菫ちゃん風夏ちゃん。私、どうしたらいいかな…」

「ひま…」

「嘘ばっか言われて辛いよねぇひまり!大丈夫、私らが絶対…」

その言葉に、私はぷるぷると首を横に振った。

「私には二人がいてくれるから大丈夫。でも旭君は、あんまり仲良い友達っていないから」

「ひまり…何気に酷いな」

「私がいくと、また色々言われちゃう。でも旭君だって色々言われて平気なわけないし、弱音吐いたりできない人だから余計心配で」

「元はといえばアイツも悪いところはあるんだし、石原は言われても仕方なくない?」

「そうかもしれないけど…でも好きな人が悪く言われてるのは辛くて」

シュンと下を向くと、二人が私の背中や肩に手を置いてくれる。

「今石原もおんなじこと思ってるかもね」

優しい声色で菫ちゃんが言う。

「ひまのところに行きたいけど、自分が言ったら余計火に油注ぐかもってさ。大体、ひま以外に石原のこと理解できるヤツなんかいないでしょ」

「菫いいこと言う!私もそう思うよ、ひまり」

元気付けるように、風夏ちゃんがニカッと笑う。

「ありがとう…私ホントに、二人がいてくれてよかった」

「で、まだどうすればいいか分かんない?ひま」

「…ううん!もう決めた!」

拳をグッと握り締めた私を見て、二人も安心したような表情を見せてくれた。







放課後、ホームルームが終わると同時に教室を飛び出す。

「わっ」

ドアを出てすぐ誰かとぶつかりそうになって、私は思わずギュッと目を瞑った。

「ひまり?」

「あ、旭君っ!」

私を受け止めてくれたのは、旭君だった。

「どしたそんな急いで」

「あ、旭君に早く会いに行こうかと…」

そんな私に旭君は一瞬驚いた顔をして、小さく

「俺も」

と呟いた。
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