嘘吐きな王子様は苦くて甘い
旭君はパッと私の手を掴むと、そのまま昇降口へ向かって階段を降りていく。
「あ、旭君」
「いいから行くぞ。ここ出て話す」
「うん…」
無表情のままただ私の手を引いて前へ進む旭君に、私もそれ以上なにか言うのをやめた。
ーあの二人だ
ー聞いた?女の子の方がさぁ
ー酷いよねぇ石原君
どこからかそんな声が聞こえてくる。すれ違う人皆が私達を噂してるような気がして、思わず背筋がゾクリとしたけど。
その瞬間、私の方を見てないはずの旭君が繋いだ手に力を込めてくれて、その瞬間気持ちがフワッとあったかくなった。
「寒い?」
旭君が私を連れてきたのは、私達の家の近くにある小さな公園。季節はもうすっかり冬で、夕方に近い今は肌寒い。
「ううん、大丈夫」
「嘘吐け。座って待ってろ」
旭君は目線でベンチを指すと、向こうの自販機に向かって歩いていく。
「ほら」
「ありがとう」
微糖のコーヒーと、コーンポタージュの缶。それを受け取って両手で包み込むと、指先からジンワリ温かさが広がっていった。
「あったかい」
ホワッと笑うと、旭君が目を細める。彼も私の隣に腰掛けた。
「なぁ、ひまり」
「何?」
「ごめん」
「うん」
「嫌んなった?」
「ならないよ」
「そっか」
「うん」
お互いに短い言葉を紡いでいく。旭君がここのところずっと何か言いたげにしてたのは、もしかしたらこの件が関係あるのかもしれない。
正確に言えば、付き合うきっかけになったあの一件のこと。
だから私から言うよりも、旭君の言葉を待ちたいって思ったんだ。
「なんか言われた?」
「うん」
「俺のせいだ」
「…」
旭君は缶コーヒーを握り締めたまま、下を向いてる。前髪が目元にかかって、どんな表情をしてるのかいまいち分からない。
「俺が、アイツらに言ったから」
「アイツらって、あの女の子達?」
「違う。そっちじゃなくて、ひまりに遊びで告ろうとしてたヤツの方」
予想外の登場人物に少し驚く。
「俺がアイツらの邪魔してひまりと本気で付きたいあったこと、ずっと気に食わないヤツが一人いて。多分、ソイツ半分はひまりに本気だったんだと思う」
「え…」
「つってもハッキリしたことはよく分かんねぇけどな。兎に角アイツらは、俺にムカついてたってこと」
「…」
何も言わない私に、旭君は俯いたまま視線だけを私に向けた。
切なそうな、申し訳なさそうな瞳の色。
「あ、旭君」
「いいから行くぞ。ここ出て話す」
「うん…」
無表情のままただ私の手を引いて前へ進む旭君に、私もそれ以上なにか言うのをやめた。
ーあの二人だ
ー聞いた?女の子の方がさぁ
ー酷いよねぇ石原君
どこからかそんな声が聞こえてくる。すれ違う人皆が私達を噂してるような気がして、思わず背筋がゾクリとしたけど。
その瞬間、私の方を見てないはずの旭君が繋いだ手に力を込めてくれて、その瞬間気持ちがフワッとあったかくなった。
「寒い?」
旭君が私を連れてきたのは、私達の家の近くにある小さな公園。季節はもうすっかり冬で、夕方に近い今は肌寒い。
「ううん、大丈夫」
「嘘吐け。座って待ってろ」
旭君は目線でベンチを指すと、向こうの自販機に向かって歩いていく。
「ほら」
「ありがとう」
微糖のコーヒーと、コーンポタージュの缶。それを受け取って両手で包み込むと、指先からジンワリ温かさが広がっていった。
「あったかい」
ホワッと笑うと、旭君が目を細める。彼も私の隣に腰掛けた。
「なぁ、ひまり」
「何?」
「ごめん」
「うん」
「嫌んなった?」
「ならないよ」
「そっか」
「うん」
お互いに短い言葉を紡いでいく。旭君がここのところずっと何か言いたげにしてたのは、もしかしたらこの件が関係あるのかもしれない。
正確に言えば、付き合うきっかけになったあの一件のこと。
だから私から言うよりも、旭君の言葉を待ちたいって思ったんだ。
「なんか言われた?」
「うん」
「俺のせいだ」
「…」
旭君は缶コーヒーを握り締めたまま、下を向いてる。前髪が目元にかかって、どんな表情をしてるのかいまいち分からない。
「俺が、アイツらに言ったから」
「アイツらって、あの女の子達?」
「違う。そっちじゃなくて、ひまりに遊びで告ろうとしてたヤツの方」
予想外の登場人物に少し驚く。
「俺がアイツらの邪魔してひまりと本気で付きたいあったこと、ずっと気に食わないヤツが一人いて。多分、ソイツ半分はひまりに本気だったんだと思う」
「え…」
「つってもハッキリしたことはよく分かんねぇけどな。兎に角アイツらは、俺にムカついてたってこと」
「…」
何も言わない私に、旭君は俯いたまま視線だけを私に向けた。
切なそうな、申し訳なさそうな瞳の色。