嘘吐きな王子様は苦くて甘い
旭君はパッと私の手を掴むと、そのまま昇降口へ向かって階段を降りていく。

「あ、旭君」

「いいから行くぞ。ここ出て話す」

「うん…」

無表情のままただ私の手を引いて前へ進む旭君に、私もそれ以上なにか言うのをやめた。

ーあの二人だ

ー聞いた?女の子の方がさぁ

ー酷いよねぇ石原君

どこからかそんな声が聞こえてくる。すれ違う人皆が私達を噂してるような気がして、思わず背筋がゾクリとしたけど。

その瞬間、私の方を見てないはずの旭君が繋いだ手に力を込めてくれて、その瞬間気持ちがフワッとあったかくなった。

「寒い?」

旭君が私を連れてきたのは、私達の家の近くにある小さな公園。季節はもうすっかり冬で、夕方に近い今は肌寒い。

「ううん、大丈夫」

「嘘吐け。座って待ってろ」

旭君は目線でベンチを指すと、向こうの自販機に向かって歩いていく。

「ほら」

「ありがとう」

微糖のコーヒーと、コーンポタージュの缶。それを受け取って両手で包み込むと、指先からジンワリ温かさが広がっていった。

「あったかい」

ホワッと笑うと、旭君が目を細める。彼も私の隣に腰掛けた。









「なぁ、ひまり」

「何?」

「ごめん」

「うん」

「嫌んなった?」

「ならないよ」

「そっか」

「うん」

お互いに短い言葉を紡いでいく。旭君がここのところずっと何か言いたげにしてたのは、もしかしたらこの件が関係あるのかもしれない。

正確に言えば、付き合うきっかけになったあの一件のこと。

だから私から言うよりも、旭君の言葉を待ちたいって思ったんだ。

「なんか言われた?」

「うん」

「俺のせいだ」

「…」

旭君は缶コーヒーを握り締めたまま、下を向いてる。前髪が目元にかかって、どんな表情をしてるのかいまいち分からない。

「俺が、アイツらに言ったから」

「アイツらって、あの女の子達?」

「違う。そっちじゃなくて、ひまりに遊びで告ろうとしてたヤツの方」

予想外の登場人物に少し驚く。

「俺がアイツらの邪魔してひまりと本気で付きたいあったこと、ずっと気に食わないヤツが一人いて。多分、ソイツ半分はひまりに本気だったんだと思う」

「え…」

「つってもハッキリしたことはよく分かんねぇけどな。兎に角アイツらは、俺にムカついてたってこと」

「…」

何も言わない私に、旭君は俯いたまま視線だけを私に向けた。

切なそうな、申し訳なさそうな瞳の色。
< 74 / 89 >

この作品をシェア

pagetop