独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
「一度だけでいいので、抱いてくれませんか?」
とんでもないお願いに、体を固くしたのがわかる。そして背中に回していた手をトントンと数度置いてから、体は離された。
「今日は車から降りて送るよ。だから部屋でよく休んだ方がいい」
「……海斗さん」
なけなしの勇気は、脆くも崩れて散ってしまった。大人らしく聞こえないふりをして、取り合わないつもりだろう。
レンタカーをホテルの車寄せまで進ませ、駐車したい旨を伝えてから、助手席まで回り込みエスコートしてくれる。
その姿はいつ見ても様になっていて、見惚れてしまう。
フロントで預けていた鍵を受け取り、部屋まで手を繋いで歩く。嬉しかったはずの手から伝わる温もりも、今は切なくなって仕方がない。
部屋の前まで来ると、その手さえも離され、寂しさから自分の手で包み込む。