独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
染谷ケミカルホールディングスの御曹司と、顔を合わせた覚えはない。私に記憶があるのは、村岡物産の社員としての染谷さんだけで。
「まだ客として社長に会いに行っていたとき、お茶を出してくれた」
気づかなかった。
総務部では、社長はもちろん重役の人が外部の人と打ち合わせする場合、お客様にお茶を出す。
手が空いた人が出すため、私が『染谷ケミカルホールディングスの染谷様』にお茶を出したのは、ただの偶然に過ぎない。
それは海斗さんの言葉からも感じられる。
「毎回、色々な人が出してくれ、みんなそれぞれ教育が行き届いていた。感心はしていたよ。そしてその中で、一際所作が美しい女性がいてね」
「まさか、それが私とでも?」
取ってつけたような話に目を丸くすると、苦笑される。
「そう。嘘を言っても仕方ないでしょう? 社長に聞いてもらってもいい。とにかく目を引く女性の応対を受け、『御社の社員はとても礼儀正しく気持ちのいい人材ばかりですね』と褒めたんだ」
確かに父はマナーに厳しい。社内では、マナーの特別講師を招いてまで徹底させている。
「俺は続けて『今の女性は特に。控えめで、それでいて気品があり、とても素晴らしい』と言ったんだ。そしたらポツリと今の社員がうちの娘だって言うんだから、お茶を吹き出しそうになったよ」
なんだか恥ずかしい。父はきっと娘が褒められたのが嬉しくて、隠しておくつもりが口を滑らせたのだろう。
「それで、娘さんとの縁談を考えさせてもらえないかと、俺からお願いしていた」
「だから、この話が持ち上がったのですか?」
にわかには信じられないが、事実、今私はここにいる。