ねえ、私を見て
日奈人君は夫の顔を知っている癖に、わざと私に聞いた。

「ええ……」

「こんばんは。澤田さんの同僚の者です。」

日奈人君は夫に、頭を下げた。

「こんばんは。いつも妻がお世話になっております。それで今日は?」

「ああ、今日会社の飲み会だったんですけど、奧さん酔ったみたいで、送って来ました。」

「それはわざわざ、ありがとうございます。」

一般常識的な会話が、繰り広げられる。

「じゃあ、僕はここで。澤田さん、また。」

「うん。」

私は余所余所しく手を振った。

日奈人君は、一度も振り返らずに、マンションを出て行った。

「いい子だな。アルバイト?」

「うん。大学生だから。」

「そっか。」

その時、エレベーターのドアが、急に開いた。
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