ねえ、私を見て
そんな私に、夫は手を握ってくれた。

「寂しいの?」

寂しい?ううん、以前よりも寂しさは無くなった。

日奈人君がいるから。

「なるべく早く帰ってくるよ。」

「うん。」

じゃあ、何で夫を抱きしめたのか、分からない。

私にも、夫への愛情が残っていたのかしら。

「くらら。温泉旅行でも行こうか。」

「温泉?」

振り返った夫は、楽しそうな表情をしていた。

「たまにはいいさ。二人でのんびりお湯に浸かって。」

うんと言えないのは、なんでだろう。

私、この人と夫婦なのに。

「温泉は、いいわ。」

「どうして?」

「ほら、お金がかかるでしょ?」

「俺がなんとかするよ。なっ。」

同意を求められても、上手く返事ができない。

これじゃあ、浮気してるってバレちゃう。

「うん。いつかね。」

そう言って誤魔化した。
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