好きな人を追って生まれ直したら、まさかの悪役令嬢でした。
「……だから、俺は蒼井さんを好きになったんだ」

「はっ?」


 ムードもへったくれもない、アホみたいな声をアホみたいな顔で言ってしまった。

 だって佐々木君がそんな言葉を不意打ちで言うから……。みるみる朱く染まる表情を見て、私の胸の奥がムズムズと暴れ始める。

 ああ本当に、佐々木君は私のことを好きなんだ——って、実感を噛み締めていた。


「蒼井さんってバス通学だよね? そこまで一緒に帰ろう」

「うん、うん!」


 バカみたいに首を縦に何度も振った。もう首がもげたっていいって思うくらいバカみたいに振りまくった。全身で一緒に帰ることを喜んでるって示したかった。

 学校を出てからたわいのない話をした。本当にたわいのない話。今日の休憩時間に何してたかとか、担任の悪口とか、お昼ご飯の内容とか。

 緊張して上手く話せてる気がしなかったけど、佐々木君が終始嬉しそうに笑ってくれるから、私もつられて笑顔が溢れた。


「あっ、バス来たね」

「ほんとだ」


 電車通学の佐々木君は私のバスが来るまで一緒に待っていてくれた。

 もうちょっと一緒にいたいな、って正直思うけど、佐々木君はそうでもないのかな……? 予定あるかもしれないし、ここで引き止めるのは気が引ける。

 私がそんなことを思っていると、バスは私達の前に停車した。


「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」


 連絡先は交換したし、今日帰った後メッセージ送ってもいい。明日も学校だし学校で会えるから、今日はおとなしく帰ろう。

 そう思って、後ろ髪引かれながらもバスに乗り込んだ。このバスの路線はいつも人の気配が少ない。

 私は選び放題な席から窓際を選び、まだ窓の外で立ち尽くしている佐々木君を見つめた。

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