好きな人を追って生まれ直したら、まさかの悪役令嬢でした。
「でも俺、前に蒼井さんが死んだ猫の死体を道路の脇に埋めてるのを見たことあるんだ」


 死んだ猫を……ってそれ、一年も前の話じゃん。確かあの時、登校途中に道路の真ん中で轢かれてる猫を見つけて、なんか居ても立ってもいられなくなって……。


「ごめん、あの時実は俺、一回その猫の横を素通りしたんだよ。でも気になって戻ってみたら蒼井さんがくしゃみして肌真っ赤にしながら猫の死体を埋めてたんだ」

「あははっ、そうそう。そのあと私は猫アレルギーのせいで呼吸困難に陥りかけてそのまま学校行かずに病院に行ったんだった」


 猫は嫌いじゃないけど、昔から結構重度な猫アレルギーを持ってる。幼い頃捨て猫を見つけてそれをうちで飼おうと連れ帰った後危篤状態にまで陥ったことがある。


「すごいよな。アレルギー持ってるのに猫の墓作ろうとするのもそうだし、轢かれた猫を素手で触ってたろ?」

「まぁなんていうか、特に何にも考えてなかっただけなんだけどね」


 これは本当に。自分がアレルギーだっていうのも一瞬頭の中から消えるくらい、あの猫の死体を見たときほおって置けなかった。


「手は石鹸で洗えばいいやーって思ってたし、消毒ジェルも持ってたし」

「俺は無視した人間だから、だからこそ蒼井さんってすげーって思ったんだよね。むしろ自分が情けなくなったというか……」


 別に自分は特別なことをしたとは思っていない。あの時、道路で猫が死んでいるのを見た時、次々に来る車に轢かれていくのが見ていられなかったっていうだけ。ただそれだけ。


「死んだ後まで辛い思いさせたくないじゃん? って死んでるんだから辛い思いすることもないのかもだけど」


 あははっ、って私は自分で言った言葉に対して笑い飛ばす。自分でも何言ってんだろーって思って。たとえ言ったことは本心だったとしても。


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