その手をぎゅっと掴めたら。

思い切って口を開く。
葉山くんをよく知る人に確認しておきたいことがある。


「ひとつだけ聞いていい?」

「はい」

「葉山くんって、甘いものは好き?」

「は?」


この場面で、ゆるい質問を投げた私に拍子抜けしたように英知くんは苦笑した。


「あー、えっと、はい。甘いものは好きですよ。ファミレスとかでも欠かさず、デザートを頼んでましたから」


そっか、そうなんだ。


「良かった。彼、ブラックコーヒーばっか飲んでるから、甘いものは嫌いで、でも私に付き合って食べてくれてるのかな?って心配してたんだ。これからは遠慮なくスイーツ食べに誘えるよ」


今はこれでいい。
葉山くんの好きな食べ物を知るくらいで、ちょうどいいんだ。いつか内に秘めたなにかを、葉山くんの口から聞けたらそれは幸せだけど。


私の言葉に英知くんは吊り気味の目尻を下げて笑った。先程とは異なる本当の笑みだ。


「ぜひ誘ってあげてください。嫌いなものはないので」


「うん。そうする。あのね、英知くん、」


「はい」


「葉山くんのこと心配してくれて、ありがとね」


「………はい!」


思えば彼の表情は最初から強張っていた。
今、目の前で無邪気な笑顔を浮かべた彼は、年相応に見える。

葉山くんのことを思って行動してくれたのだろう。


いつか分かり合える日がくればいい。
2人がテニスをして楽しめるその日に、立ち会えたら嬉しいな。

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