その手をぎゅっと掴めたら。
薬の名前が書かれているであろう部分は葉山くんの手にかぶって見えなかった。
この違和感を口に出してしまったら、どうなるだろう。
きっと今の状態で葉山くんは綻びのない嘘を吐けない。
弱った葉山くんに不利な質問を投げかけることが卑怯に思えて、聞けなかった。
ううんーー聞くのが怖いだけだ。
しばらくして落ち着いた様子の葉山くんはゆっくりと立ち上がり、私の頭を撫でた。
「迎えにまで来てもらって申し訳ないけど、今日は帰るね」
「送っていくよ!電車代、貸してくれる?」
あいにく携帯しか持ってきてなかった。
「ひとりで帰れるよ。ごめん、今はカッコつけさせて」
お金を貸してもらおうと伸ばした手は空を掴む。
「でも……」
「また連絡するね」
疲れた顔で葉山くんが笑った。
「うん。気をつけてね。帰ったら電話してね」
彼にこれ以上、無理をさせてくなくて私も作り笑いを浮かべる。
改札に戻って行く彼を見送ることしかできないなんて無力すぎる。
本当は支えたい。
家まで送り届けたい。
けれど早足でふらつくことなく進む彼が、私には虚勢を張っているように見えて、追いかけることができなかった。
今の彼は、私を必要としていない。
そう分かったから、なにもせず、その背中が見えなくなった後もしばらく立ち尽くしていた。