その手をぎゅっと掴めたら。

するりと、傘から手が離れる。

「別れよう…」

地面に落下した傘を拾う気にもなれず、葉山くんの言葉を反復する。



「…なんで、」


訳が分からない。

冷たい雨が降り注ぐ。


「やっぱり付き合うとか、面倒だなって思った」


先程よりもこちらに傘を傾けた葉山くんの髪の毛が濡れて、水が頬を伝う。


「違う」


今、自分がどんな状況にいるか追いつけない頭で、それでも反射的に答えた。


「葉山くんは面倒という理由で、こんなことは言わない。もっと、他の理由があるのでしょう?」


「他の理由?ないけど」


突き放すような物言いに、ムキになって言い返す。


「誤魔化さないで!」


「それじゃぁ、君のことが嫌いになったと言えばいいの?」


残酷な言葉を投下した彼は、薄ら笑いを浮かべた。

< 157 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop