医師の妻としての覚悟 ~寂しさと過ちを乗り越えて…

「ねぇ お母さん。お父さんに 秘密ある?」

父が 寝室に 引き上げて 

母と お茶を飲みながら 私は聞く。


「秘密?そうね…30年以上 一緒にいるんだもの。秘密の 一つや二つ あるわよ。」

「へぇ 意外。お父さんとお母さんって 仲良いから。何でも 話してると思った。」

「何でも?言う必要のないことは 言わないわ。お父さんだって そうじゃない?」

「そうなんだ…?」



「ねぇ 涼子。昔 お父さん 浮気したこと あるのよ。」


母は 私から 何かを感じたはず。

でも 私を 問い詰めることは しないで

突然 思いがけないことを 言った。


「えっ?浮気…?嘘でしょう?」

「涼子が 幼稚園の頃よ。拓也は まだ小さいし。お母さん 子育てに 夢中で。お父さん 寂しかったのね。」

「お母さん 許したの?」

「ほんの出来心だって。お父さん すごく反省して 謝ってきたから。まあ お母さんにも 浮気される隙が あったわけだし。」

「へぇ…ちょっと ショックだなぁ。お母さん どうして わかったの?」

「何となく わかるのよ。毎日 一緒にいれば。それで お父さんを 問い詰めたら 正直に 白状したの。」

「お父さん 弱いなぁ…」

「うん。お母さんも そう思う。正直に言って お父さんは スッキリしたかもしれないけど。お母さんは 騙し通して ほしかったわ。嘘だって わかっていても 否定してほしかったわ。」

「……」


あまりにも タイムリーな母の話に

私は 上手く 切り返すことが できずにいた。


「お母さん 本当のこと 知りたいって 思わなかったの?」

「どうかな…もし お父さんと 別れるなら 本当のことを 知らないと 気持ちが 切り替えられないけど。結局 許したわけだし。それなら 知らないままの方が 良かったわ。認められた後って やっぱり 辛かったもの。」

「疑ったままじゃ ずっと モヤモヤするんじゃない?」

「ううん。否定して ほしかったわよ。浮気は 止めたわけだし。」

「ずっと 騙されたままでも?」


「秘密って 言った人は 楽になるけど 聞いた方は そこから 苦しみが 始まるの。墓場まで持っていく覚悟が できない人は 秘密を持つ資格なんて ないのよ。」


母の言葉に 私は ハッとした。


圭介とのことを 京一に告げて

許されたいと 私は 思っている。


でも それは ただの甘え。


私は 京一に 隠し通さなくては いけない。

どんなに 辛くても…




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