政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
「早速、案内してもらってもいいかな」
ポーッとしている場合ではない。理仁に促され、「はい」と背筋が伸びた。
佐々良イチゴ農園には栽培専用のハウスが八棟ある。全国的に見れば小規模かもしれないが、都心の住宅地にあるのを考えたら大きな方だろう。
地面から一メートル高い位置で作る高設栽培にしたのは、今から五年前。それにより低い位置で土をいじったり収穫したりする必要がなくなったため、作業の負担が大幅に軽減された。特に年を重ねた和夫には、もってこいの栽培方法と言える。
『農業協同組合』、通称『JA』の担当者によると潅水や追肥などの溶液管理が自動化・マニュアル化され、土を使わないため土壌由来の病気の発生や連作障害も軽減できるため、近頃は高設栽培に移行する農家が増えているらしい。
まずは理仁を栽培ハウスへ案内した。
七月の今の時期は収穫も終わり、ランナーと呼ばれる、親株から長く伸びたツル状のものを切り離し終えたところ。株を傷つけるとたんそ病に感染しやすくなるため、気を抜けない作業だ。
夏場のハウス内は外とは比べ物にならないくらいに高温になるため、かなり過酷でもある。今も一歩足を踏み入れた途端、理仁の顔が険しくなった。湿気をはらみムワッとした空気は、とても不快だろう。
「ランナーを切り取った後、このハウスの中は?」