政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

◇◇◇◇◇

翌日、菜摘はプロポーズへの有効な手立ても見出せないまま理仁の来訪を待っていた。――ただし、菜摘としてではなく大地として。
思いきって瓜ふたつの大地に変装したのだ。

今でこそ髪の長い菜摘がショートカットだった大学生のときには、お互いの友達が間違えるほどだった。
一六五センチと比較的背の高い菜摘は、華奢で一七〇センチの大地とは背格好も似たり寄ったり。大地に成りすますのは、それほど大変なことではない。

長い髪はまとめてウィッグを被り、胸にはきつくさらしを巻いた。すっぴんに黒縁メガネをかけ、Tシャツにデニムを穿けば、どこからどう見ても大地。……のはず。

鏡の前で何度もくるくると回ってたしかめた菜摘は、自信をもってうなずいた。

イチゴ農園は守りたいが、結婚の決意はまだ固められない。もう少しだけ時間がほしかった。

理仁が大地に会ったのは数える程度。彼はきっと大地に扮した菜摘を見破れないだろう。菜摘はどちらかといえば落ち着いた低いトーンの声をしているため、気をつけてしゃべれば大地と変わらないはず。
大地のふりをして理仁に会い、〝姉はしばらく旅に出た〟と伝えて時間稼ぎしようと考えたのだ。

菜摘が会えば、理仁は強引な手に打って出る恐れがある。でも、菜摘がいないと知れば、いくら理仁でもこの場はひとまず諦めて帰るだろう。ほんの数分なら、理仁の目を欺けるはず。
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