政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
理仁が強引なのは知っていたが、ここまでだとは想定外。菜摘がいなければ、いったん去るだろうという予測は甘いものだったのだ。
引っ張られていくうちに敷地内に止められた黒い高級車が目に入る。理仁の姿を確認したのか、六十代そこそこに見える白髪交じりの運転手が降り立った。
「日高さん! ちょっと待ってください!」
「悪いけど、そうはいかないよ」
押し問答が終わる気配はない。
(どうたらいいの……!)
焦る最中、菜摘はふと思った。
このまま大地として彼についていき、理仁の真意を見極めるのもいいかもしれない。
農園の行く先を考えると現段階で結婚を回避するのは難しいが、夫となる男をよく見て、そばでじっくりと決意を固めていく方がいいような気がする。
いくら政略的な結婚とはいえ、相手をよく知らないままではいたくない。肩書きも備えた容姿端麗な男だから、女の影がちらつく可能性だって考えられる。菜摘ではなく大地として近くにいたら、理仁も油断して本性を出すかもしれない。
農園を守ってもらうための結婚だから、そういった点も多少は目を瞑らなくてはならないが、最初から知っていれば心構えも違うだろう。