政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
理仁が冗談交じりにプロポーズをしてきたときに、菜摘も負けじと飛ばしたジョークのひとつだ。決して本気で言ったわけではない。
「〝それは〟なに?」
顔を覗かれてヒヤッとする。
「――あ、いえ、その……姉はふざけて言っただけだと思います」
「そう? でも俺は本気と受け止めた」
口角は上がっているのに目が笑っていない。責められている気がして、菜摘はまばたきを激しくして目を泳がせた。
車が止まり、理仁に続いて降り立つ。間近で見ると、さらに迫力がありとても大きい。三階建てだろうか。アールを描いたデザインがところどころに施され、センスの良さを感じさせる。
「中に入ろう」
そう言われ、ボストンバッグを片手に彼の背中を追う。
木製の二枚ドアの玄関を開けると、広々としたエントランスが現れた。正面の大開口から自然光が降り注ぎ、白い壁がより明るさを印象づける。