政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
先ほど理仁が言っていたとおり螺旋階段が美しいラインを描き、縦方向への広がりに一役かっていた。
「理仁様、お帰りなさいませ」
スリッパの音を響かせて現れたのは、五十代前半と思われる女性だった。
目尻に優しげな皺を刻み、大きな目を細める。ショートカットがよく似合う、ふくよかな人だ。
「ただいま」
「奥様をお連れになると伺っておりましたが……?」
女性が大地に扮した菜摘を見て首を傾げる。
菜摘は菜摘で、奥様という言葉に動揺した。すっかりそういう算段らしい。
「予定変更。じつは逃げられたんだ」
理仁がその女性にこそっと耳打ちする。なぜか少し楽しげだ。
もしかしたら逆境を楽しむM体質なのではないか。
「あらまぁ! それは穏やかではございませんね」
女性は目をまん丸にして驚き、口もとに手をあてた。