政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

「それは残念。とにかく〝早く出ておいで〟と伝えてくれる?」
「そう、ですね」
「じゃ、先にリビングに行ってる」


ひらりと身を翻した理仁が部屋を出ていくと同時に、菜摘はふぅと肩を上下させて息を吐き出した。大地に成りすましている重圧と緊張で体じゅうがカチンコチンだ。

そこでふと思い返す。

(……〝早く出ておいで〟?)

物陰に隠れている猫にでもかけるような言葉がなんとなく引っかかる。

(〝帰っておいで〟じゃなくて〝出ておいで〟?)

まるで今ここにいるような言い方に感じなくもない。


「まさかね。気づいているわけがないよね。勘繰り過ぎ」


頭を振って不安を蹴散らし、菜摘もリビングへ向かう。大きな二枚扉を開いたら甘くいい香りが立ち込めていた。


「さぁさ、大地様もこちらへどうぞ」
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