政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
「農園を見に戻りたい?」
「はい」
即答した。
「大地くんもイチゴ栽培に熱心なんだね」
「……あ、あぁ、はい、そうなんです」
コンマ一秒の沈黙を作り、焦って返す。
本物の大地はイチゴそっちのけで大学生活を謳歌中だ。
菜摘をじっと見つめる理仁の笑みが怖い。なにかを探られそうで、それでいてすべてを見透かされているようで心臓がトクトクと嫌な音を立てて高まっていく。
「きちんとここへ帰ってくるならいいよ」
「帰ってきます」
そもそも大地に扮してここへ来たのは理仁の本心を探るためだから、それをしないで逃げだしはしない。
「ま、菜摘さんがここに現れればそれに越したことはないけどね」
「それは……近々、たぶん……」
曖昧に言って誤魔化しつつ、タルトを頬張る。せっかくおいしいものを食べているのに、緊張と不安で味わうどころではなかった。