政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
「だからね、大地もあまり目立つ行動はしないでほしいの」
『なんで』
「大地がふたりいたらおかしいから」
おかしいのは菜摘の方だとわかっているが、そうお願いする以外にない。ここにいるのが菜摘だとバレたら、理仁の本音を探れなくなってしまう。
大地は電話口でもわかるほど大きなため息をついた。
『けどさ、世話になってるじいちゃんが入院してるのに旅に出るか?』
「……っ」
言葉に詰まる。そこを突かれると非常に痛い。浅はかだと言われたら、まさしくそう。
「ほんの少しの間だから」
大地がこれ以上ないくらい大きなため息をつく。
五つも年下の弟に完全に呆れ果てられたようだ。
菜摘にも馬鹿げたことをしている自覚はある。でも、せめて数日だけ。菜摘本人ではなくべつの人間として理仁を見極めたい。
「とにかくよろしくね」
何度も念押しして大地との通話を切った。