紅に染まる〜Lies or truth〜




数時間前まで寝ていたベッドに腰掛けると

同じように座った尋

間接照明しか点いていない空間は
表情が読めない分肩の力が抜ける


「・・・尋?」


「ん?」


「背中・・・見せて」


「あぁ」


サッと背中を向けた尋は
首から下がるタオルを外した


・・・綺麗


間近に見るそれは
尋の呼吸に合わせて生きているようで

流線形の身体も飛び掛かりそうな迫力も

綺麗という表現が合っている気がする

鋭く見えた眼は
近づいて見ると少し柔らかくて
真っ直ぐ牡丹に向けられている

恐る恐る伸ばした手は
迷いなく牡丹に向かい

そっと触れると
尋の背中がピクッと反応した

大輪の花を咲かせる牡丹


・・・偶然


一瞬過ぎった曖昧な言葉は


「それ、愛だ」


尋の言葉で消えた


「・・・なんで?」


「愛への忠心」


背中の牡丹に触れているままの私を
振り返ることのない尋


「愛の持ち物にあった印」


あぁ、そういうことかと
頬が緩む

バッグの中のポーチも
ペンケースも
パソコンカバーやキーホルダーも
私の物は全て牡丹が咲いている

母がイメージを作ったもので
当たり前のように溢れている


『愛は牡丹に負けないくらい綺麗』


そんな母の口癖を思い出した

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