カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


 結納を終えた私たちは、婚約者同士だ。

 まだ籍は入れていないが、政略結婚のため個人の意思で破棄できないふたりを表す関係は、もう夫婦と呼んでもおかしくないだろう。

 配膳を手伝ってもらい、茶の間のテーブルに向かい合わせで座る。


「「いただきます」」


 手を合わせて、彼は一番に味噌汁へと口をつけた。

 緊張しながら見つめていると、ふわりと緩んだ表情が目に映った。


「美味しい。ほっとする」

「お口に合ってよかったです」


 穏やかな空気が流れる。

 お互い簡易な浴衣をまとって、畳の敷き詰められた茶の間でご飯を食べているなんて、普段の生活と違いすぎて日常感がない。

 でも、不思議と心が落ち着いて温かくなる。それは、彼の雰囲気や会話の間が心地よいからだ。

 嘘つきで危険な人だと思っていたのに、誠実で真面目なところもあって、隙のない完璧超人のときもあれば、穏やかで気の抜けた顔を見せるときもある。


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