カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


「桃が美澄屋に嫁ぐのを重荷に感じないように、ふたりでしっかり未来について考えていこう。無理に女将にならなくたっていい。俺は、妻がいると思えば仕事にも身が入るし、こうやって一緒にご飯を食べるだけで癒されるから」


 ドキリと胸が鳴る。

 ずっと心に引っかかっていた不安を浄化してくれた気がした。それは、なによりも私が欲しかった言葉だ。

 将来を曖昧に流しているような、漠然とした不安があった。しっかりと意向のすり合わせができる時間が取れなくて、怖かった。

 千里さんは、ずっと考えてくれていたのだ。


「嬉しいです。でも、その言葉を聞いて、やっと決心がつきました。老舗呉服店に嫁ぐと決まったからには、妻として、私生活だけでなく、お仕事もずっと支えていきたいです」

「今の仕事を辞めてもいいの?」

「はい。楽な道を選んでお言葉に甘えるわけにはいきません。退職するときは引き継ぎをしっかりしたうえで、若女将として、お店や着物について学んでいきたいと思います」

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