黒王子の溺愛
その瞬間、もしも、この件が他の誰かに行くようなことがあったら?
嫌だ、と思ったのだ。

今、この瞬間に答えを出さなかったら、美桜が他の誰かのものになってしまうかもしれない。

──そんなことは、我慢出来ない!

そう思ったら、名乗りを上げていた。
「でしたら、美桜さんを僕にください。」

「美桜を紹介するよ。」
その時、柾樹の目には、美桜の姿しか目に入らなかった。

綺麗な、綺麗なお姫様。
「初めまして、黒澤柾樹と申します。」
目が合ったのは初めてだった。

その綺麗な瞳が、柾樹を捉える。
「藤堂美桜です。」



美桜を貶める気は無かった。

ただ、覚悟を知りたかっただけなのに、美桜はどこまでも気高くて、堕ちることはなかった。

どんな言葉をぶつけても、脱がせても…イカせても…涙で顔を濡らしていても…。
違う…むしろこちらが、どんどん堕ちていくだけだった。

触れるつもりなんてなかった、唇を重ねるつもりもなかった。
なのに、一緒にいると、美桜がどんどん欲しくなってしまう。

こんな、親の決めた婚約は、きっとダメになるんだろうと思っていた。
美桜の望まない婚約。

ならば、嫌われていい。
思いきり嫌われれば、破棄になっても、辛くはない…おそらく…。
そう、思っていたのに。

昨日は何度も、耳元で甘い声で自分の名前を呼ばれた。
理性なんかとっくに飛んでいた。
抱けるものなら、抱いていた。

『私は、柾樹さんに、喜んでほしかったんです…』
あの美桜の言葉も、あの時の美桜も、何度でも脳内再生できる。
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