黒王子の溺愛
休まず、働き続ける黒澤のことは、秘書としては、本当にありがたいと思うが、身体のことが心配だったのも、間違いはなかった。

そんな折、『経済界の華』と呼ばれる、藤堂美桜と、黒澤が電撃のように婚約を発表し、その甘々な溺愛ぶりは最近、界隈でも有名なところだ。

もちろん、黒澤家の跡継ぎである、柾樹に婚約者が出来たのは、秘書としても喜ばしい限りだが、それだけではなく。

美桜は献身的なのだ。

朝、壊滅的に弱い柾樹は、朝食を食べることができない。

そのくせ、誰よりも早く出勤して仕事をすることに、秘書は心配していた。
こんなことではいつか、身体を壊すのではないか…。

けれど、美桜と婚約してから、美桜の作ってくれたお弁当を、朝、口にしているのを見るようになったのだ。

柾樹は時間を置くごとに頭がはっきりしてくるようだが、最近はそれくらいの時間に、一口でつまめるようなものを口にしているのを見た。

先日は、ラップに包まれたおにぎりだった。
おはようございます、と社長室を開けたら、海苔と、味噌汁の香り…。

「いい匂いですね…。」
「あ、匂い…残るのか…やはりおにぎりじゃない方がいいか…。」

「どうされたんです?」
「ん?ああ、美桜が…朝食を作ってくれるんで、最近はここで食べるようにしていて…。」

その柾樹の見たことのない、甘やかな表情に、危うく倉田は腰を抜かすところだった。
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