脆い記憶
地下鉄を降りて改札を抜ける

地上へ出る階段を登っていく毎にどんどんと地上の温度がわかってくる

ああ今日も暑い
息がしにくい
湿度が高い空気

もう一度地下に潜ってしまいたくなる

「・・・はぁ、暑い・・・」
さてこれからどうしよう

なんの当てもない

とにかく歩いてみるか

まだ午前中なのにもうこんなに暑い

あそこのコンビニで飲み物を買おうかな

歩道を越えた先にコンビニがある
歩道の信号は赤だ
足が止まる
足を止めると余計に暑い

この街は盆地で風も弱くサウナに閉じ込められているような感覚になる

でも
なんだか懐かしい気もする


ぼーっと歩道の先をみつめる

『わぁ・・・カッコいい人だな』
無意識に心で呟いてしまうほどステキな人が歩いてるのを見つけてしまった

弱い風にもなびく柔らかそうな髪
前髪の隙間からのぞくキレイな鼻筋
きっとこれが黄金比率といわれるのだろうと納得してしまうような横顔

つい見惚れてしまう

・・・誰かに似てる気がする


「!!!」


車のクラクション音が耳に突き刺さってうるさい

耳鳴りがする

女の人の甲高い叫び声で耳鳴りが悪化した

……あれ?
さっきまでせかせかと歩いていた人たちが
私を見てなにか叫んでる?

ああ車が私に向かって来てる

あれ?違う

わたしが向かって行ってる?

最悪だ

キレイな男の人に見惚れて轢かれるなんて
かっこ悪い死に方だなぁ


人は死ぬ寸前に走馬灯をみるというけど
私には浮かんでくる思い出が少なすぎる
走馬灯すらみれないなんて
なんて悲しい寂しい人生だったんだろう

せめて最期ぐらい何か思い出したかったなぁ


今度こそ死んじゃうかも
お父さんお母さんごめんね
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