HOME〜私と家族〜
「わ、わかった。ありがとう」

パッと問題集に視線を戻す。
やばい、あんなに至近距離でタクと目が合うのは初めてで、未だにバクバクと心臓がうるさい。

…びっくりした。

「おう。頑張れ」

タクの声も、心なしか上ずっている。
しばらく、私がシャーペンを走らせるカリカリとした音だけが響く。

「…夏休み。どこか行くか」
「えっ?」
「沙穂が数学で平均点取れたら」
「そんな、ハードルが高い…っていうか、タクの受験生じゃん」

こないだお母さんに言われたばかり。

「俺から誘ってんだから、邪魔にはならないだろ。それとも、俺と出かけるのはもう嫌になった?」
「別に…そんなことはないけど」

ずるい聞き方。
嫌なわけないじゃない。
曲がりなりにも、私達は他人ながらなかなかいい関係を築けていると思ってる。
可もなく、不可もなく、仲良く居候やれてるはず。

「よかった。じゃあ決まりな。ちょうど俺の復習にもなるし、これからテストまで教えてやるよ」
「ちょ、それこそ申し訳ない!私なんかに付き合わないで!」

タクにだって当たり前にテストがあるのだから。

「放課後図書室に集合な」
「え、ちょっと!」

タクは私の話を聞かず、一方的にいうだけ言うと、部屋を出ていった。
…どんだけ優しいのよ。
怒ってるのに嬉しくて、嬉しいのに悲しくて、複雑な感情が胸を覆う。
願わくば、そう願わくば、この高鳴りは勘違いだと思いたい。
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