バーテンは甘すぎる
『嫌がってるだろ、放せよ。』
声がした方を振り返ると、白のシャツに黒のスラックスに革靴が目に入る。
そこには17:30の常連さんが立っていた。
『え?にいちゃん誰よ?関係ないだろ?』
キモ男Bが常連さんに向かって言うと、常連さんはこちらに歩いてきて私の腕を掴んでいたキモ男Aの腕を掴んで関節技をした。
『いたたたたたた!』
『放せって言ってるだろ?』
『わかったわかったから!』
常連さんのおかげで私の腕が解放され、キモ男たち3人衆はそそくさと逃げていった。
『今どきあんなの本当にいるんだな…』
ボソッとつぶやいた常連さんはこちらを見て、少し心配そうな顔をした。
『大丈夫でした?』
常連さんのこの一連の場面がまるでドラマのワンシーンを思い出させるようなものだったから呆気に取られていると、さらに近寄ってきて私の目の前で手をフラフラさせた。
『おーい』
「あ、すみません、ありがとうございました」
我に返ると常連さんが思いの外近くてすぐに後ずさった。
「常連さんですよね。すみません、何だか…」
恥ずかしい場面を見せてしまって言葉に詰まっていると、常連さんはいつもの笑顔に戻った。
『覚えててくれたんですね。大丈夫ですよ、むしろなにもなくてよかったです、こちらこそ遅くなってしまってすみません』
発言から行動からなにからなにまで好青年すぎて少し眩しい。
「いえ、ありがとうございました」
なんだか手持ち無沙汰でどうしようかと思っていると、ふと店長が賞味期限切れていないのに私のためにもたせてくれたお弁当が目に入った。
「お詫びと言えるほどの品じゃないんですけど、今日店長にお弁当もらったんで、一つどうぞ。賞味期限は切れてないんで、大丈夫です」
本当にお詫びとは言えないけど申し訳なさが勝ってしまって手に持っていた袋を差し出さずにはいられなかった。
『ふふふっ』
すると常連さんは、いつもの笑顔を少し崩して肩を揺らしながら笑っていた。
やっぱりさすがにお弁当はなかったか…と思い、「すみません、いらないですよね」といい手を引っ込めると、慌ててこちらに近寄ってきた常連さん。
『いやいや、お弁当なんてくれた人なんて初めてで、つい笑ってしまいました、すみません』
といい相変わらずさわやかな笑顔を浮かべながら差し出していた私の手を掴んだ。
「あっ」
急に手を触られたもんだからびっくりして引っ込めてしまう。
一瞬だけ少し微妙な空気がながれた。