ビビディ バビディ ブー! 幸せになーれ!〜この愛があなたに届きますように~
ダメだ…。

これ以上この人のそばにいたら私はもう平常心ではいられない。

「あはは、良かったです。
迫田さんの役に立てて。
これで…。
これで私の仕事も終わりですね」

どうにか絞り出した乾いた笑い声に、ぎゅっと固く握りしめた手のひら。
痛いくらいに手のひらに食い込む爪。握りしめる拳にどんどん力が込められていく。


「迫田さんの恋人のふりは楽しかったし、ちょっとだけドキドキしちゃいました。

迫田さん格好良すぎです。
ほんと、私じゃなかったら勘違いしちゃいます。

こんな素敵な着物も着れて、きれいにしてもらって。
夢見ているみたいな時間でした。
ふふっ、ほんと、現代版シンデレラみたいでした。

でも、このエレベーターから降りたら私達はもう他人です。

だから…この仕事の残りの報酬を今ここでもらいます」

「えっ?」

迫田さんの驚く声が頭上で聞こえて私が彼に抱きついたのはほんの数秒だった。

もう一度だけ触れたかった唇に触れることができなくて、抱きつくだけが私がだせた精一杯の勇気。


開いた扉から逃げるように駆け出した私は、呼ばれた名前に振り返らず、そのままベリーヒルズから遠ざかるように走り続けた。

だけど…

迫田さんがもう私の後を追いかけてくることはなく、私の魔法の時間はあっさりと終わりを告げた。


緑に囲まれたいつもの日々。


突然現れて、まるでジェットコースターに乗ったようにドキドキハラハラした風が一瞬で吹き抜けていった。

早朝の屋上庭園でふとあたりを見回し探してしまう。

あの日私の中を吹き抜けていった突風。

2度とここに現れるはずのない彼の姿を、私は毎朝探している。

「馬鹿みたい…」

「ん?何か言ったか朋葉」

振り向いたおじいちゃんに首をふる。

「ううん、なんでもない。
おじいちゃん、先に帰ってて。

もう少し私ここでくつろぎたいから」


見上げた空は今日も快晴だ。

あの日のことがまるで夢だったみたいに、私の日常はかわらない。今日もまたいつもの1日がはじまった。
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