冷酷御曹司と仮初の花嫁
 そんな愚痴めいたことを言いながら、間島さんはサンドイッチのオードブルを抱えて行ってしまった。碧くんは店のドアを見ながら、フッと息を吐いた。

「間島さんって本当に明るい人だよね。あのマシンガントークは実験明けの疲れには妙に効く。眠りかけた頭が一気に冴えたよ。さすがにパトロンとかないでしょ」

「もしもパトロンがいたら、カフェでコーヒーを淹れるの?」

「全く、何考えているのだか。俺の希望の就職先はバイオテクノロジー関係であって、コーヒーは趣味だよ。さ、そろそろお客さんも来るだろうから、用意しよう。金曜の夜だから、こっちも忙しくなると思うよ」

 碧くんと一緒に店の準備をしていると、麗奈さんが薔薇の花の入った花瓶を持って戻ってきた。薔薇がメインのフラワーアレンジも華やかで、麗奈さんそのものだった。

「薔薇だけじゃ寂しいから、ガーベラやラナンキュラスを一緒にしてみたの。薔薇は存在感が強すぎるから可愛めの花で存在感を消そうと思ったけど、量が量だから全部は無理ね」

 そういって麗奈さんは花瓶を棚の上に置いたけど、それでも薔薇の花は余っていて、奥のバケツに水切りした状態で置いてあった。

「店の薔薇を全部買ってきたんじゃないですか?」

「碧くんもそう思う?あの人。そういうところが不器用で可愛いのよ。私が真っ赤な薔薇が好きだと言ったら、ずっとそれなの。薔薇って結構値段するから申し訳ないと思うけど、今更、要らないともいえないし」

 そういいながらも麗奈さんは嬉しそうで……。しばらくは三人で準備をしながら、コーヒーを飲んでいると次第に人が入ってきた。
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