冷酷御曹司と仮初の花嫁
 一人が入ってくると、徐々に席が埋まっていく。コーヒーやオレンジジュースを頼む人が多い時間帯が過ぎると、サンドイッチで小腹を満たす人たちが集まってくる。そこからが私の忙しい時間だった。

 そんな時間の始まりに麗奈さんの携帯電話が鳴ったことだった。電話の相手は千夜子さんかららしく、珍しいと呟きながら出ると、すぐに綺麗な顔を曇らせた。

『千夜子、どうしたの?……。え、それは大変ね。……。無理よ。それは分かるけど、え、うん。分かったとりあえず聞いてみてから、連絡する。でも、無理だと思うから』

 電話切った麗奈さんは私の方を見て、申し訳なさそうな顔をした。

「サンドイッチに何かありましたか?」

「ううん。そうじゃなくて……。陽菜ちゃん。今日の千夜子のパーティのお客さんが香水嫌いな人が居るらしくて、香水をつけてない子がいないらしいの。で、二時間だけ、その人の隣に座って貰えないかなって。その人が主賓らしいのよ」

「無理です」

「よね。一応、そう言ったのよ。千夜子にも。でも、本当に困っているらしくて……。破格のバイト代を出すって。二時間で五万。サブに千代子が付くから陽菜ちゃんはお酒を作る必要もないし、ただ、笑っていてくれたらいいって。でも、我慢して座っていて、五万だから。陽菜ちゃんどうかなって」
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