冷酷御曹司と仮初の花嫁
 父が最後まで拘ったのに、私はすぐにその借金の遺産放棄をした。私にとっては亡くなった父の気持ちよりも、母の方が大事だった。でも、長年の疲れが溜まった母も父の争議の途中で倒れ、今はその病床にある。今度はその治療費が重荷になってきていた。

 長年に渡って、母の身体は弱っていて、今は治療を受けられる体力はないのが致命的だった。少しでも早く体力を戻して、治療を行わないといけないので私は焦っていた。

 高校を出たら、働こうと思っていた。大学で勉強をしている身分ではないと何度も言ったけど、母はどうしても譲らなかった。お金の苦労をすることは分かってた。でも、母のことを思うと、どうしても大学に行かないということは言えなかった。

 でも、あの時、働いておけば、そう思うと、胸の奥が痛む。しかし、母はどうしても私が大学を卒業することを望んでいた。


 私はバイトをしながら、家計を支え、奨学金で大学を卒業した。

 母は入退院を繰り返していて、今は働けない状況になってしまい、普通の治療費は高額医療補助で賄えるけど、細々としたものや、アパートの家賃などは私が働くことによって賄っている。社会人になって、事務員をしながら一生懸命働いたけど、私と母の生活を支えるには、事務員の給料だけでは足りなかった。

 昼は事務の仕事をして、週末は繁華街のカフェでバイトをして、奨学金の返済と母の病院代にしている。夜のバイトを入れたとしても、生活は苦しくて、母がもう一度発作を起こしたら、手術とも言われている。

 体力を戻して、早く手術をすれば、お母さんの身体は楽になる。


 借金を返すために働いた身体は弱っていて、手術に耐えられないとお医者様に言われていた。もしも、私が半年、この人と結婚生活をすれば、私は借金から逃れられ、母は少しでもいい環境で手術も受けられるかもしれない。


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