冷酷御曹司と仮初の花嫁
「そこまでしなくても」

「さっきも言ったように、戸籍上は妻なのだから、妻の生活を守るのは夫の役目だろ。君に臨むのは俺の邪魔にならないようにすること。後、大事なことを言い忘れていた。祖父が呼んだ時だけ夫婦のフリをすること」

「夫婦のフリ?」

「そうだよ。俺の祖父は病床にはあるが、恐ろしく頭の切れる人だ。でも、俺にとっては大事な人だから、安心させたい。それに半年というのはそこに理由がある。君には言っておく。俺の祖父はもう長くない。余命の宣告も終わっている。君との契約期間がそのままだと思って貰っていい」

 佐久間さんが私の逃げ道を塞いでいく理由が分かった気がした。見合い除けは理由の一つかもしれないけど、一番大きな理由はお祖父さんのこと。

 半年だけの結婚生活。でも、それはただ名前だけの仮初の花嫁。

 ×が一つは付くけど、その代わりにお母さんの健康と借金が消える。損得を考えると悪い話ではなかった。あんなに苦しそうにしているお母さんの姿を私はもう見たくなかった。十分な費用があれば、きっとお母さんの身体は楽になるだろう。

「どう?まだ、何かある?」

「分かりました。お受けします」

「本当にいいの?」

「半年後に必ず離婚してください」

「約束は絶対に守る。それと半年後の君が出来るだけ困らないようにさせて貰いたい」

 佐久間さんが強引に私を連れ出した意味が分かったような気がした。母が病気で苦しんでいるように、佐久間さんのお祖父様も苦しんでいるのかもしれない。そして、お祖父さんを喜ばせたかったから、あんなに強引だったのだろう。

 そう思うと、ストンの何かが心に落ちた気がした。

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