冷酷御曹司と仮初の花嫁
「いいよ」

 佐久間さんは育ちがいいのが分かる。食事の作法がとっても綺麗で、一つ一つを味わいながら、大事に口に運ぶ。所作の綺麗な人は育ちがいいと聞いたことがあるけど、目の前に座る人はそれを体現している人だった。優しい口調もハッとするような端正な容貌も女性にもてないわけはない。実際に彼女だっていると思う。

「佐久間さんならいくらでも花嫁になってくれそうな人が居ると思うのですが」

「うん。正直なところをいうと、言い寄ってくると言っていいのか分からないけど女性からのアプローチがないわけではない。でも、そんな人を妻にすることで、半年後に必ず離婚してくれるとは限らないだろ。だから、結婚相手を雇うことにした。君なら、絶対に離婚してくれるだろう。これは俺と君との契約だよ」


「彼女とかいないのですか?」

「いないよ。居るなら、こんなことを頼むのは失礼過ぎるだろう」

「……」

「婚姻届と一緒に、離婚届も一緒に書いて、一通は君に、そして、もう一通は俺が持っておく。そうしたら、半年後に離婚できるだろ。その他にもお互いに希望を書き込んだ契約書も作成する。これは契約だから」

「佐久間さんの条件は何ですか?」

「まずは結婚して、一度でいいから親に挨拶に行くこと。マンションの同じフロアに住んで貰うこと。昼間の会社はいいけど、夜のカフェは辞めてもらう。その代わりにマンションの家賃、奨学金、母親の入院費、手術代はこちらで持つ。それと月々の生活費は口座に振り込むからお金の心配はしないでいい」

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