冷酷御曹司と仮初の花嫁
「それって無理ってことだよ。だって、陽菜さんのサンドイッチが残るわけないし」

 碧くんの方を見ると話しながら準備が終わったのか、店に出て女の子を魅了するバリスタが誕生していた。さっきまでは大学で疲れている感じだったのに、

 漆黒の髪が艶やかに靡き、端正なその顔はその辺りのホストも真っ青になりそうな容姿を鏡に映していた。奥の部屋に入ってきた時は普通の爽やかな大学生って感じなのに、シャツとエプロンを付けるだけでイケメンバリスタに変身する。

 でも、今日はギリギリまで大学にいたからか少しのアンニョイさを漂わせていた。疲れも色気に変わるって……。

「うん。卵大好きだから嬉しい。あ、今日、車で来たから、マンションまで帰り送るよ」

 店が終わるのは午前四時。店で時間を潰して電車の始発で帰るか、タクシーで帰るかの二択だった。出来れば、少しでも早く帰りたいから、タクシーと言いたいところだけど、夜にバイトしないといけない状況の私にとって碧くんの送迎は大歓迎だった。

「助かる。眠さを我慢する時間が少しで済む」

 私の現金な申し出に碧くんはクスクス笑った。でも、実際に二時間後にマンションに着くのと、20分後に着くのは違う。

「送り狼していい?」

「それは無理。でも、タクシー代浮くから助かる」

「ははは。陽菜さんらしいね。さ、麗奈さん待っているから、店に行こうか。休憩時間に卵サンド作って」

「了解」


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