冷酷御曹司と仮初の花嫁
 そんな話をしながら、店に行くと、ちょうどドアが開き、店の中に薔薇の芳香が一気に漂うほどの大きな深紅の薔薇の花束を持った男性が入ってきた。

 三つ揃えの仕立てのいいスーツを着込み、その仕草も歩みも優雅だった。そして、ソファで寛ぐ、麗奈さんに深紅の薔薇の花束を差し出した。店の開店と同時に流れ出した緩やかなクラシック音楽が薔薇の花に色を添えた気がした。

「麗奈。今日も美しい君にプレゼントだよ。薔薇も君の前では褪せてしまうけど」

「ふふふ。いつもありがとう。とっても綺麗。私の好きな薔薇をありがとう。いつも嬉しいわ。コーヒーでいいかしら?」
 
「いや、今から取引先の接待がある。でも、接待の前に君に綺麗な顔を見ようかと思って」

 店の中に入ってきたのは麗奈さんの信者の一人で、どこかの会社の社長をしていると聞いている。身体にぴったりとしたスーツを着込んだ彼はどう見ても、麗奈さんよりもかなり若く見える。地位も名誉もある男性は麗奈さんのことをうっとりと見つめていた。

 麗奈さんは美魔女だから、実際の年齢と見た目年齢が乖離している。

 彼のように麗奈さんよりも年下の信者が数えるほどいて、高級クラブでもないこのカフェの開店の時は、胡蝶蘭が店に入りきらないほどだったらしい。それに、実は麗奈さんに花束を持ってくる人は彼だけではないので、この店に飾られている花はそんな貢物で賄われていた。
< 9 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop