君は私の唯一の光
「自分でわかってるんでしょ?釣り合わないって。なのに、洸夜の優しさに漬け込むなんて、最低だね。」



「……っ、そんなんじゃない!」



そんな最低な人間に見られる筋合いはないよ。洸夜くんは優しいけど、それに漬け込んでない。



「どう思っててもいいけど、洸夜と付き合ってるのを隠したのは、事実でしょ。」



「それは、洸夜くんが学校の人に言ってるか、わからなかったから!」



「洸夜のせいにするの?彼氏を悪くいうなんて、彼女として最低じゃん。」



松原さんの言う事も一理ある。洸夜くんに、自分を非難するなって言われたのに、結局しちゃって……。しかも、洸夜くんを言い訳にして。




「………洸夜くんと付き合ってるのを、隠してしまったのは、洸夜くんにも申し訳ないと思っています。でも、洸夜くんのことは、本気で好きです。」



今の自分の気持ちを、松原さんにぶつける。絶対、洸夜くんの好きな気持ちは、馬鹿にさせない。



「“洸夜くん”って、呼び捨てできないような人、彼女なの?せめて、あだ名とか。てか、ずっと病院にいるような人、サッカー好きの洸夜となんて無理に決まってるじゃん。」



特に気にしてなかった事を言われた。確かに、彼女なら呼び捨てが普通なのかな?


しかも、決定的な所を突かれた。私と洸夜くんの違い。外に出られるか、出られないか。インドアではなく、思いっきりアウトドア派の洸夜くん。逆に、外になんて出たことがない私。

住む世界、生きてきた環境が違うのは、百も承知。でも、私は洸夜くんを好きになったんだもん。



「私は4歳から外に出たことがなく、洸夜くんや松原さんが生きてきた環境とは全く違う、この病院の中で毎日を送っていました。洸夜くんと共感したりする事は、困難です。でも、洸夜くんと毎日を送りたい。これからは、洸夜くんが側にいて欲しい。そう思うのは、ダメですか?」




洸夜くんと私は、どうしたって今のままじゃ分かり合えない事が多い。でも、洸夜くんが私を好きって言ってくれた言葉、洸夜くんが私を前に向かせてくれた言葉は、絶対に信じたい。そしてなにより、私が洸夜くんの隣にいたいから。



「なにそれ。人の気持ちなんて、簡単に変わるの。大人になるまでには、絶対別れるんだから。というか、貴方が死ぬ時は、洸夜を1人置いていくつもり?」



「え?」




人の気持ちが変わる……。それは、自分でもよくわかってる。欲しいおもちゃが変わったり、興味がある事が変わった事は、自分も経験してるから。


でも…………その後の『貴方が死ぬ時は、洸夜を1人置いていくつもり?』っていうのは、どういう事?



「私、中学でお父さんを亡くしてるの。事故で。」



突如(とつじょ)語られた、松原さんの過去。



「仕事中、車で移動してたらトラックが衝突して、即死。私、パパっ子だったから、中学生なのに、すぐに受け止められなかった。死んだってわかってるのに、お父さんの帰りを待ち続けて、自分でも馬鹿だって思うくらい落ち込んだ。」



松原さんは、想像もできないくらい悲しい思いをしてるんだ。私も、洸夜くんやお兄ちゃんが、(かえ)らぬ人となってしまったら、とてつもなく辛い。想像なんてしたくない程に。



「そんな時、ずっと側で(なぐさ)めてくれたのが、洸夜だったの。」



松原さんが元気になるように、ずっと励ましていた洸夜くん。2人の関係が、だんだんわかってきた。2人は………簡単には離せない。今まで積み重ねてきた、長い月日がある。



「ずっと優しくしてくれた。もちろん、元々いい人だったけど、弱ってた私にとって、洸夜は救いだった。その時から、好きなの、洸夜の事が。」



急な発言に、ビックリした。今、“好き”って言ったよね………?目を見開いて、松原さんを見ると、真剣な目でこちらを見つめられていた。



「だから、絶対許さない。中学からずっと好きなのに、なんで貴方みたいな、たった1か月一緒にいただけの人に、取られなきゃいけないのか、わかんない。しかも、洸夜の想いを1%もわかってあげられなさそうな人。今まで、洸夜に釣り合うように頑張ってきた私の努力はどうなるのよっ!」



松原さんは、中学から洸夜くんが好き。逆に私は、たった1か月同じ病室で過ごしただけ。なのに、洸夜くんが好きになったのは、私だった。こんなの、松原さんには残酷(ざんこく)すぎる………。だからと言って、自分が身を引くなんて、できない…。どうすればいいのか………そんなの、誰にもわからないよ。この状況は。

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