君は私の唯一の光
「私なら、洸夜のことをちゃんと理解できる。そのために、洸夜の好きなサッカーの勉強もして、洸夜と同じ高校で同じくらいの成績取れるように頑張ってきた。洸夜が骨折した時も、ずっと連絡してた。心配だったから。」



松原さんの痛いほどの想いが伝わる。



「なのに私が心配してる間、洸夜は私じゃない子と恋していったなんて………ふざけないでよっ!」



悲痛な胸の叫び。きっと、松原さんはその想いを今まで、誰にも打ち明けず、胸の奥底に閉じ込めてたんだ。苦しくなる程に膨れ上がった恋心。それが成就(じょうじゅ)せず、私と洸夜くんが付き合うことになって。



「私……洸夜には幸せになってもらいたいの。本当は、私が相手なら良かった。でも、違うんだろうなって大体予測は出来てた。友達止まりなんだろうなって。だから、彼女になれなくても、洸夜の側にいられる1番の理解者になろうって頑張った。」



松原さんの大きくて綺麗な黒い瞳から、大粒の涙が溢れる。



「洸夜に彼女ができたって、本人に嬉しそうに報告されて、死ぬほど辛かった。でも、同時におめでとうって思えた。これで良かったんだって、ケジメがつけられると思ったから。なのに、相手は誰?って聞いてかえってきたのは、“乃々花”っていう貴方の名前だった。」



松原さんは、始めの怖い表情ではなく、必死に涙を(こら)えている表情だった。



「耳を疑った。だって、洸夜とたった1か月同室だった子が、なんでって思ったから。てっきり、同じ学校の人だと考えてたんだもん。」



それは、確かにそうだ。人の人生は、今じゃ80年くらい続く中で、1か月はとても短期間。ただ、いつ死んでしまうのか、わからない私には、1か月が貴重なのだけど。



「でも、納得もできた。学校でスマホを見てる事も格段と増えたし、学校とか部活が終わったら、秒で帰るし。」



きっと、受け入れられていない自分がいるんだ。だから、納得したって頭では思ってても、心では整理できてなくて、グチャグチャになってるんだ。



「病室に初めて部員とお邪魔させてもらった時、貴方、倒れたでしょ?あの時の洸夜の(あわ)て方は、見たことなかった。きっと、あの時には洸夜は好きだったんだと思う。でも、もう私と同じように苦しむ人は、いなくなって欲しいの。大事な誰かを亡くして、置いていかれた人が傷つくのは、もう見たくない。ましてや、それが私を助けてくれた洸夜に降りかかるなんて、絶対嫌なの。」



松原さんが言わんとしていることが、だんだん明確になってきた。それは、私が受け入れなければならない現実でもあるように感じた。

松原さんの声は、涙を堪えていたのを辞めた途端、すごく震えだした。


「散々、私の想いばかり押し付けて、ごめんなさい。でも………お願いだから、洸夜が深く傷つく前に…………洸夜と別れて下さい。」



松原さんに頭を下げられる。私は動けず、手で布団を握り締めた。


誰のせいでもないのに、誰もが傷つくこの状況を、打開する方法はないのだと、身に染みて感じた。









洸夜くんと別れるべき時が、すぐそこまで迫っていた。
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