君は私の唯一の光
朝が来た。



学校がある生活に慣れているせいで、6時頃に目が覚めた。




乃々花が倒れて、12時間。
いまだに目を開けない乃々花に代わって、機械音だけが鳴っていた。





朝食が運ばれてきた。
それでもまだ、乃々花は起きなかった。



食べていたら、病室の扉が開いた。入ってきたのは、高身長の若い男。俺の知り合い……ではない。



黒髪に白い肌に整った顔立ち。白雪姫の男版って感じ。



目が合って、会釈(えしゃく)された。俺も慌てて返したけど、顔を上げた時には、もう俺の方なんか見ていなくて、乃々花のベットサイドの椅子に座るところだった。



慣れている様子の男は、動かない乃々花の手を握った。その様はまるで、恋人…だった。
映画とかで見るような光景。朝日が差し込む病室で、眠る彼女と優しく手を握る彼氏。いつの日か、姉と妹に見させられたワンシーンを連想させた。



なんか、見るのが辛くなって、無言で朝食を食べ終え、スマホに入った友達からのメールに返信をした。ほとんどが昨日来てたものだったけど、結局あれから何もする気力が湧かず、俺にしては珍しくボーっとしていたから、返信しなきゃいけないものが、山のようにたまっていた。



ほとんどが同じような内容で、思わず笑ってしまった。スマホから視線を上げると、乃々花が目に入った。それと同時に、こんなにたくさん連絡してくれる人がいるのは、普通じゃないっていうのを、思い出した。俺より重大な問題を抱えている乃々花にこそ、こういう何気ないメールが必要なはずなのに。



俺が、どれだけ恵まれた環境の中にいるのか、よくわかった。こんなに大切な事を教えてくれた乃々花には、感謝しかない。




『今日、学校終わったら、部活のメンツでお見舞い行くわ。』





俺が所属するサッカー部のマネージャーの松原(まつばら)からの着信だった。こんな状態の乃々花がいる病室に、あんなうるさい奴らを招いても、いい事は無い。急に目を覚ましても、俺がすぐに対応できるとも限らない。だからといって、好意で見舞いに来てくれるって言ってる奴らに断るのも、申し訳ない。





「乃々?……乃々!?」





悶々と悩んでいると、さっきの男の歓喜(かんき)に溢れる声が聞こえた。




斎藤(さいとう)さん、乃々が、目を覚ましました。来てください!」




乃々花……目覚めたんだ。喜ぶと同時に、少し苦しい想いに駆られた。男が、“乃々”って(した)しげに呼んだのが、ちょっとだけ、気に食わなかった。




< 7 / 97 >

この作品をシェア

pagetop