うそつきアヤとカワウソのミャア
高校受験を控えた中三の冬休み、二階の自室で勉強していた私は、祖母に下から呼ばれた。
当時、私が一緒に暮らす家族は二人。母と、母の母、つまりお婆ちゃんと私の三人で、郊外の一戸建に住んでいた。
母は夜遅くまで働いたので、幼い私の面倒を見たのは、もっぱらお婆ちゃんだ。
中学には私も家事の多くを担うようになり、楽が出来ると喜んでもらえた。
普段、勉強中に呼び出されることはほとんどないので、用件を訝しんで階段を下りる。
ダイニングにいたお婆ちゃんは、おやつの時間だと私を対面に座らせた。
皿に載った鯛焼きが二つ、テーブルの真ん中で微かに湯気を立てている。
色の違う二匹は、味も異なるみたいだ。
「珍しく、スーパーに屋台が出張してきてたんだよ。白いのがクリーム、黒いのがチョコ入りなんだって」
「どっちが私?」
「どっちでも。両方とも亜耶に合わせたから。私は餡子の方が好きだけどねえ」
甘い物は疲れた頭にも効く、という助言は、私も聞いたことがあった。
鯛焼きが何より効果が高いとまでお婆ちゃんは言ったけど、これは今以って他で聞いたことはない。
本当かどうか分からない教えを混ぜてくるのが、祖母の常だった。
私のイタズラ好きは、隔世遺伝じゃないかなあ。
頭から鯛焼きを齧り始めた私は、お婆ちゃんがモソモソと口を動かすのを見て、食べるペースを落とした。
お互いの鯛焼きが半分くらいになった時、「学校から電話があった」と告げられる。
「いつ?」
「昼ご飯のすぐあとに。山崎さんに、おまじないを教えたんだって?」
「あー……」
その場で七回くるくる回り、鏡に向かって「ガブルガブルポン!」と叫ぶ。
これを毎日、朝昼晩と三回繰り返せば、学業成就は間違い無し。受験もバッチリ。
もちろん、咄嗟に口から出た私のオリジナルおまじないだ。
同じクラスの山崎さんが、随分と浮かない顔をしていたものだから、元気づけのつもりで休み前に教えてあげたのだった。
まさかそんな呪文を、本当に毎日唱えていたとは。
奇行を心配した母親が彼女を問い詰めたところ、私の仕業と発覚する。
怒った親は学校へ一報を入れ、担任から家へと連絡が来た。
当時、私が一緒に暮らす家族は二人。母と、母の母、つまりお婆ちゃんと私の三人で、郊外の一戸建に住んでいた。
母は夜遅くまで働いたので、幼い私の面倒を見たのは、もっぱらお婆ちゃんだ。
中学には私も家事の多くを担うようになり、楽が出来ると喜んでもらえた。
普段、勉強中に呼び出されることはほとんどないので、用件を訝しんで階段を下りる。
ダイニングにいたお婆ちゃんは、おやつの時間だと私を対面に座らせた。
皿に載った鯛焼きが二つ、テーブルの真ん中で微かに湯気を立てている。
色の違う二匹は、味も異なるみたいだ。
「珍しく、スーパーに屋台が出張してきてたんだよ。白いのがクリーム、黒いのがチョコ入りなんだって」
「どっちが私?」
「どっちでも。両方とも亜耶に合わせたから。私は餡子の方が好きだけどねえ」
甘い物は疲れた頭にも効く、という助言は、私も聞いたことがあった。
鯛焼きが何より効果が高いとまでお婆ちゃんは言ったけど、これは今以って他で聞いたことはない。
本当かどうか分からない教えを混ぜてくるのが、祖母の常だった。
私のイタズラ好きは、隔世遺伝じゃないかなあ。
頭から鯛焼きを齧り始めた私は、お婆ちゃんがモソモソと口を動かすのを見て、食べるペースを落とした。
お互いの鯛焼きが半分くらいになった時、「学校から電話があった」と告げられる。
「いつ?」
「昼ご飯のすぐあとに。山崎さんに、おまじないを教えたんだって?」
「あー……」
その場で七回くるくる回り、鏡に向かって「ガブルガブルポン!」と叫ぶ。
これを毎日、朝昼晩と三回繰り返せば、学業成就は間違い無し。受験もバッチリ。
もちろん、咄嗟に口から出た私のオリジナルおまじないだ。
同じクラスの山崎さんが、随分と浮かない顔をしていたものだから、元気づけのつもりで休み前に教えてあげたのだった。
まさかそんな呪文を、本当に毎日唱えていたとは。
奇行を心配した母親が彼女を問い詰めたところ、私の仕業と発覚する。
怒った親は学校へ一報を入れ、担任から家へと連絡が来た。